本を読んだ53/旅をする木

あきふかまる



旅をする木 (文春文庫)

旅をする木 (文春文庫)

アラスカという遠い地から 人間の日常とは遠いもう一つの日常を見つめ 発信してきた写真家
日々の生活や仕事中に起こった出来事をつづったエッセイ集


非常に魅力的な文章で 行ったことのないさいはての地が目を閉じると目の前に広がるような感覚を覚えた
これが彼自身の魅力であって きっとそのことがたくさんの人や自然との出会いを可能にし 様々な作品を残していったのではないかと思った


特に印象に残った景色は トーテムポールのこと
私のトーテムポールのイメージといえば 小学校の卒業制作くらい??(ちっさいっっ)
彼が出会ったそれは 世紀を越えた昔に棺としてつくられたものだった
その中に トーテムポールのてっぺんから大木が生まれ 成長していたものがあったという
中の息絶えた人体の養分を吸収してこのようなことになったのではないかというが
これを読んだときはなんとも形容しがたい気持ちになった
人間も自然の一部なんだ とか とまらない時の流れ とか
なんだかはっきりとはわからないけど ひどく胸をゆさぶられ その情景を必死に記憶しようとしていた


私が日々見ている世界とは比べものにならないスケールの世界が広がる生活を送る彼に対し
“同じ”なんて言葉を使うのはなんともおこがましいが
同じことを考えているなぁ と 今まで自分が感じていたけど言葉や文にしてこなかった大切なことが目の前に文となって現れて なんか少しほっとなったことがあった


ちょっと著者の文を拝借すると
「電車から夕暮れの町をぼんやり眺めているとき、開けはなたれた家の窓から...ふっと家族の団欒が目に入ることがあった。...そして胸が締めつけられるような思いがこみ上げてくるのである。あれはいったい何だったのだろう。...」


まさに 本当にこんな気持ちを何度も繰り返していて
確かにそれは 決して心躍るような気持ちではなく むしろ悲しいような 寂しいような そんな感じ
私は夕刻という時間のせいなのかな なんて漠然と思っていたのだけど
自分とは違う時の流れや 決して交わることのない別の世界の存在に気づく 不思議な瞬間だったのだろう


もっともっと 紹介したいものが 決して厚くないこの一冊にぎゅうっっと入っています
是非読んでみてください


最後に
これをプレゼントしてくれたのは 他でもない我が夫さんだったのですが
彼はいつも 奥の深ーいつぼをつく いい贈り物をしてくれます
おそらく 自分が良かったと思ったものを薦めてくれているのだと思うのだけど
そのことで私の世界がぐんぐん広くなっていくこと その感謝の気持ちもあらためて感じたこと
忘れないように文に残しておこっと